New Paradigm
   
パラダイムシフトによるまちづくり
 この10年余はバブル崩壊後経済の低迷が長期化している時代であるが、産業構造、金融構造、企業構造、司法・行政構造といった経済・法律等の社会の根幹となるメカニズムに大きな変革がおきており、新しい価値観やパラダイムシフトに否応なく直面せざるを得ない時代となっている。そして再生(リヴァイヴァル)によって、金融再生・産業再生・民事再生・都市再生によって、長期化している低迷から脱し、日本の経済再生・社会再生をなし、再び、活力ある「わがまち」にせんと努力している現在である。この再生の成否は、新しい価値観に対応することに、パラダイムシフトを行うことに、懸かっているといわれている。

」から「住民の歴史・伝統・文化・生活・ふれあい・地域共生・まちの記憶・を保存するわがまちづくり」へ、である。

原点に立ちかえることもパラダイムシフトかもしれない。宇沢弘文東京大学名誉教授が、
2002330日付日本経済新聞「私の履歴書」の中で「人間の回復」という命題で非常に示唆に富んでいる都市再生論を述べておられ、近代的な都市計画理論を否定し、人間にとって住みよいまちなみはいかにあるべきかを考えた都市計画の専門家の説を紹介している。「人間の回復」という原点に立ちかえってのまちづくり説である。

ヨーロッパでは街の中心部から自動車を締め出して市電を大幅に拡充し、かつてのにぎわいを取り戻したり、川の土手のコンクリートをはがして昔ながらの蛇行した川に戻したりして「都市と自然のルネサンス」という流れが出ているということである。

 都市の再生は伝統的なコミュニティを大切にしたまちづくり如何にかかっている。

 都市再開発プロジェクトも従来のように大型の箱物施設をつくることから伝統的なまちなみを活かして住民自身によるサスティナブルなコミュニティわがまちが維持されるように配慮する必要がある。

不動産カウンセラーとまちづくり
 まちづくりをイニシアティブとって仕掛けるのは、あくまでも地元住民であるが、不動産カウンセラーも住民のひとりとして、もしくは、カウンセラーとして積極的に仕掛けていく適任者であると思われる。まちづくりの仕事の実績を持つ不動産カウンセラーもこのことを指摘している。

 不動産カウンセラーは、その前提となる資格である不動産鑑定士としての多くの不動産鑑定評価実績とその研究・研鑽・経験を基礎として不動産についてのカウンセリング業務に従事しているものである。不動産、特に土地は人間との関わりあいにおいて多様な権利態様の対象とされる中にあって、不動産鑑定士は、これらの権利態様を分析・整理した上で、権利の経済的価値を鑑定評価することを専門とするものであることから、これらの権利態様の分析・整理については不動産鑑定士が特にすぐれてなしうるのであるが、このような不動産鑑定士の資質にカウンセラーの資質が加わることにより、不動産カウンセラーはまちづくりにかかわっていく最適任者となる。中心市街地活性化案件やまちづくり案件は、歴史的時間の流れの中のまちのあり姿を分析・整理し、まち(土地)の活性化(有効利用)をカウンセリングするのであるから、不動産カウンセラーがすぐれてなしうる仕事であるといえよう。


 カウンセラーとは、米国や英国のカウンセラー(US counselor, Brit. counsellor)からの外来語で、原語の意味は、オックスフォード辞典によると a person trained to give advice on personal or psychological problems とされており、個人的な、人格的な、精神的な、立ち入ったこころの問題について、その人の身になって問題解決に取り組んでいく専門家で、こころの問題の専門家のみならずその原因となっている生活上の問題の専門家としての弁護士もカウンセラーと呼ばれている。米国や英国では、日本で風邪をかかりつけの医者に看てもらうように、気軽にカウンセラーにかかり、こころの状態や生活上の問題を分析・整理してもらうのが一般的である。カウンセラーとクライアントが全人格的にかかわりあっていくという要素が強いのである。従って、単に、ビジネスライクにテクニカルな問題でエクスパートアドバイスを与えることが主で、人格的なかかわりが希薄なコンサルタントとは一線が画されている。因みに、米国企業の法務部長は、house counsel もしくは 単に counsel と称されているが、社長(Chief Executive Officer)直属で、会社が直面する問題を、全人格的にかかわりあうように、社長の問題として、会社組織全体の問題としてあらゆる角度から分析・整理し対処する。これがcounselと称される所以である。人格的なかかわりが希薄なコンサルタントとは異なるのである

 
不動産カウンセラーも、その前提となる資格である不動産鑑定士としての多くの不動産鑑定評価実績とその研究・研鑽・経験を基礎として不動産の問題に関して、全人格的にかかわりあって、問題を解決して行く資質を有する。

 他方、まちとはクオリティー・オブ・ライフ、カリテ・ドゥビが享受さるべき生活の場であり、コミュニティが形成され民主主義を機能的に担保する場「わがまち」であり、歴史を背景に先人から受け継がれてきた文化というすぐれて全人格的ななりわいの場である。従って、このようなまちの再生・活性化という問題にかかわりあっていく最適任者は不動産カウンセラーをおいていないのではないかと思われるのである。

 「住民主導で積極的に仕掛けていくことが求められている」とか「不動産カウンセラーも住民のひとりとして、もしくは、カウンセラーとして積極的に仕掛けていく適任者である」と上述したが、まちづくりには、カウンセラーのこの「仕掛けていく」ことが大切なのではなかろうかと思われる。英語の commit という言葉は障壁を乗り越えて踏み込んでいくという積極的なニュアンスがあるが、「仕掛けていく」ということは、案件に commit していくということではなかろうかと思われる。 consulted とか involved とか engaged というような受身のコンサルタント的なかかわりかたではないのではなかろうかと思われる。カウンセラーも、問題となっている案件の中に全人格的に踏み込んで、かかわりあって、コミットしていくのであから、まちづくりを仕掛けていく最適任者であると思われるのである。

 日本の確固たる再生において不動産カウンセラーに課せられている責務は重い。

地中海都市の肖像
 地中海の都市空間は、古来、民族と文化が行き交い、融合した磁場でした。ヘレニズムの輝かしい文化遺産、ローマ帝国がもたらした確かな生活基盤、キリスト教やイスラームの信仰が育んだ強靭でしなやかな思考。現代世界がもつ科学や技術、 哲学や思考の母体は、まさに地中海都市にあったといわれます。現代世界に多大な影響を残した、この文化融合社会としての都市空間について考えました。

<演題> <講師>
1  ローマ 東京大学・ローマ史
 本村 凌二
2  コンスタンティンノープル 一橋大学教授・ビザンツ学
 大月 康弘
3  アテネ 慶応義塾大学教授・西洋古典学
 西村 太良
4  テッサロニキ 早稲田大学教授・西洋美術史
 益田 朋幸
5  フィレンツェ 信州大学教授・イタリア史
 斎藤 寛海
6  ヴェネツィア 法政大学教授・建築史
 陣内 秀信
7  パレルモ 東京大学教授・西洋中世史
 高山 博
8  イスタンブル 東京大学教授・オスマン帝国史
 鈴木 薫
9  バルセロナ 東京外国語大学教授・スペイン近代史
 立石 博高
10  アレクサンドリア 一橋大学教授・近代アラブ史
 加藤 博