「倫理規程」

平成22年3月16日
社団法人 日本不動産鑑定協会

理事会は、定款第3条及び第4条の規定に基づき、倫理規程を次のように定める。

前 文 

 不動産鑑定評価制度は、不動産鑑定士による合理的な価格情報の不動産市場への提供を通じて、不動産の適正な価格形成に資するように整備されたものであり、不動産市場を支える基盤として重要な社会的役割を担うものである。このような社会的役割を具体的に果たしていくためには、不動産鑑定士個人の自己研鑽とともに、共通の価値観に支えられた不動産鑑定士相互あるいは関係者との信頼関係の構築が必要不可欠と認識する。
 当協会は、不動産鑑定評価制度のいっそうの発展に貢献するため、当該制度の中心的役割を担う会員に対し、社会より求められる専門性にふさわしい共通の行動規範としてこの倫理規程を制定する。

第1章 総 則

(社会的役割)
第1条 会員は、不動産鑑定評価制度の社会的公共的意義を十分理解し、それぞれに課せられた専門職業家としての責任・義務のもとに、良心に従い、的確で誠実な業務活動の実践によって、不動産の適正な価格の形成に資するように努めなければならない。

(専門職業家としての自覚)
第2条 会員は、専門職業家としての誇りと責任感を昂揚し、担うべき重要な社会的役割を深く受け止め、自らの行動を厳しく律する必要があることを自覚し、安易な妥協をしてはならない。

(人権の尊重、公平中立性保持))
第3条 会員は、基本的人権を尊重し、他者の権利を侵すことのないように留意するとともに、自己の信念に基づいて行動し、偏見をもつことなく公平中立な態度を保持しなければならない。

(知識習得、能力向上、品位保持の取り組み)
第4条 会員は、高い倫理観と専門的能力の兼備こそが将来の発展を導く源泉であることをよく理解し、不断の自己研鑽により、視野を広げつつ、体系的な知識の習得と技能の維持向上に努めなければならない。
2 会員は、公序良俗に反する事業その他品位を損なう事業を営み、若しくはこれに加わり、またはこれらの事業に自己の名義を利用させてはならない。

(職務に対する基本姿勢)
第5条 会員は、専門職業家として、良心に従い誠実な対応を積み重ねることによって、不動産鑑定評価制度に対する信頼を高めるように努めなければならない。
2 会員は、依頼者との間で取り交わす委任契約の趣旨を尊重し、職務を行うよう努めなければならない。

(秘密の保持、プライバシーの尊重)
第6条 会員は、正当な理由なく、職務上知り得た秘密及び他者のプライバシー並びに個人情報を他に漏らしてはならない。会員でなくなった場合においても同様とする。

(法令・規則等遵守の徹底)
第7条 会員は、法令、当協会の定款、規則、規程及び総会の議決事項(以下、「法令等」という。)を遵守しなければならない。
2 会員は、法令等が十分遵守されるような態勢の構築に努めなければならない。

(不当行為の排除)
第8条   会員は、その業務の受託に際し、不当な懇請または宣伝・広告・勧誘などの行為だけでなく、他者に誤解を生じさせるような行動を避けるようにしなければならない。

(能力を超える引き受け等の禁止)
第9条 会員は、自己の能力に関して冷静に評価を行い、その能力の限界を超えていると判断される業務を引き受けてはならず、単独での業務遂行に懸念がある場合には、他の不動産鑑定業者(不動産鑑定士)または他の専門職業家との業務提携を図るなどの対策をとるようにしなければならない。

(透明性の確保と情報開示)
第10条 会員は、業務を受託するに当たっては、その相手方に対し自己の業務処理能力・態勢等を正しく伝えるとともに、根拠を示しつつ正当な報酬についての説明を行う等、積極的な情報開示により、不要なトラブルの予防に努めなければならない。

(信頼性の保持)
第11条 会員は、依頼者との信頼性を保持し、紛議が生じないように努めなければならない。

第2章 価格等調査業務

(鑑定評価基準、ガイドライン、指針及び留意事項等の遵守)
第12条  会員は、価格等調査(経済価値を判定しない場合を除く。以下、同じ。)にあたって、国土交通省が定める「不動産鑑定評価基準」、「不動産鑑定基準運用上の留意事項」、「不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン」(以下、「価格等調査ガイドライン」という。)、「価格等調査ガイドライン運用上の留意事項」、「海外投資不動産鑑定評価ガイドライン」、「財務諸表のための価格調査の実施に関する基本的考え方」及び「証券化対象不動産の継続評価の実施に関する基本的考え方」を遵守しなければならない。
2 会員は、価格等調査にあたって、前項のほか、当協会が自主的に定める「不動産鑑定士の役割分担等及び不動産鑑定業者の業務提携に関する業務指針」、「価格等調査ガイドラインの取扱いに関する実務指針」、「価格等調査業務の契約書作成に関する業務指針」、「不動産鑑定業者の業務実施態勢に関する業務指針」(以下、「各種指針」という。)、その他別表に揚げる留意事項等を遵守しなければならない。

(鑑定評価の独立性・中立性の確保と客観性及び良心性の保持)
第13条 会員は、価格等調査を行うに当たっては、独立性・中立性を確保し、前条に従い、事実に基づき客観的かつ良心的でなければならない。

第3章 不動産鑑定業者の規律

(不動産鑑定業者の品位保持)
第14条 会員は、不動産鑑定業を営むに当たっては、営利を求めることにとらわれて品位を損なう行為をしてはならない。

(不動産鑑定士の設置義務)
第15条 会員は、不動産鑑定業を営むに当たっては、不動産鑑定士である鑑定業者が自ら実地に価格等調査を行う事務所を除き、その事務所ごとに専任の不動産鑑定士を置かなければならない。

(専任不動産鑑定士)
第16条 専任不動産鑑定士とは、継続的にその事務所において専ら不動産の価格等調査を行う不動産鑑定士であり、業務提携の場合を除き、2以上の事務所の鑑定評価の業務に従事してはならない。
2 会員は、不動産鑑定業を営むに当たっては、専任の不動産鑑定士を置かず、単に有資格者の名義を借りて不動産鑑定業を行ってはならず、または自ら実地に価格等調査を行うことなく、名義だけを貸してはならない。

(成果報告書等)
第17条 不動産鑑定業者は、不動産の価格等調査の依頼者に、鑑定評価額その他国土交通省令で定める事項を記載した成果報告書を交付しなければならない。
2 不動産鑑定業者は、成果報告書の写しその他の書類を5年間保存しなければならない。なお、法令等に基づき電磁的記録により保存する場合の保存期間も同様とする。

(法令等遵守の徹底)
第18条 不動産鑑定業者は、当該業者に所属する不動産鑑定士、業務補助者、その他事務職員等が、当該業者の業務に関して知り得た秘密を漏らし、若しくは利用することのないよう、また、当該業務に関し違法若しくは不当な行為を行うことのないよう指導及び監督しなければならない。

(報酬)
第19条 不動産鑑定業者は、業務を引き受けるに際し、業務の難易度・要する時間及び労力その他の事情に照らして、適正な報酬を依頼者に対して提示できるよう態勢の構築に努めなければならない。

第4章 当協会との関係における規律

(当協会の取り組みへの協力)
第20条 会員は、当協会の設立趣旨に鑑み、その目的達成に向けて円滑な協会活動を確保するため、当協会の行う諸事業に対しては積極的に協力しなければならない。

(当協会等に対する不正行為の禁止)
第21条 会員は、直接であるか間接であるかを問わず、また、いかなる方法によっても、他の会員及び当協会の信用を傷つけるような行為をしてはならない。

(規律を乱す行動への対応)
第22条 会員は、当協会の規律を乱す行動をとる会員があるときは、全体の倫理向上のために助言その他適切な手段を講じるよう努めなければならない。

(職務等の濫用防止)
第23条 会員は、その業務活動に関して公示する文書等に関しては、当協会の役職名あるいは公職名などを表示して他者を混乱させるようなことをしてはならない。

(当協会会員である旨の表示)
第24条 会員は、その業務において発行する成果報告書等については、当協会の会員である旨を記載するようにしなければならない。
2 会員は、その業務を行う事務所については、当協会の会員である旨の標識等を表示するようにしなければならない。なお、標識等の制式については別紙様式による。
3 会員は、当協会会員である証として会員章を認識し、常に着用するよう努めなければならない。なお、会員証の制式については別紙様式による。

第5章 他の専門職業家との協同・連携の際の規律

第25条 会員は、依頼を受けた価格等調査業務の処理に関して、他の専門職業家の助言等を求める場合には、依頼者その他関係者に対する責任は全て会員自身が負わなければならない。
2 会員は、依頼を受けた価格等調査業務以外の隣接・周辺業務について、他の専門職業家と業務提携して業務処理を行う場合にも、依頼者その他関係者に対する直接の責任はその依頼を受けた会員自身が負わなければならない。

(相手方への敬意)
第26条 会員は、助言等を求め、または業務提携する他の専門職業家に対しては、その専門性に敬意を払い、よりよい協力関係を築くように努めなければならない。

(利益相反の排除)
第27条 会員は、依頼者と縁故または特別の利害関係を有する他の専門職業家に助言等を求め、または業務提携して業務処理を行ってはならない。
2 会員は、他の専門職業家と業務提携して業務処理を行う際、その途中で依頼者との縁故または特別の利害関係が判明した場合、若しくは特別の利害関係が生じた場合には、速やかにその業務から離脱しなければならない。

(秘密の保持)
第28条 会員は、他の専門職業家に助言等を求め、または業務提携して業務処理を行う場合にも、正当な理由がなく、知り得た秘密をこれらの者に漏らし、利用させてはならない。

(情報の提供と共有)
第29条 会員は、助言等を求め、または業務提携して業務処理を行う他の専門職業家に対しては、秘密であるものを除き、情報の提供と共有を心がけ業務の円滑化に努めなければならない。

(他の専門職業家との紛議)
第30条 会員は、助言等を求め、または業務提携して業務処理を行う他の専門職業家との間に生じた紛議にていては、可能なかぎり当事者間の協議によって円滑な解決に導くよう努めなければならない。

附 則(平成18年3月22日制定)
1 この規程は、平成18年3月22日よりこれを施行する。
2 昭和43年8月1日制定の倫理規程及び倫理のしおりを廃止する。
3 この規程の施行に拘わらず、すでに懲戒規程に基づき請求が受理されている懲戒案件については、従前の倫理規程および倫理のしおりを適用する。

附 則(平成22年3月16日一部改正)
  この改定は、平成22年3月16日からこれを施行する。


別 表(第12条第2項関係)


 ・商法上の現物出資・財産引受・事後設立の目的となる不動産に係る弁護士の証明並びに不動産鑑定評価上の留意点
 ・不良債権担保不動産の適正評価手続における不動産の鑑定評価に際して特に留意すべき事項(その1、その2)
 ・「販売用不動産等の強制評価減の要否の判断」に関する不動産鑑定評価上の留意事項
 ・「投資信託及び投資法人に関する法律(投資法)」における不動産鑑定士が行う特定資産の価格等の調査上の運用指針にていて 
 ・不動産鑑定士が企業評価を行うに当たり留意すべき事項
 ・固定資産の減損に係る鑑定評価の留意事項
 ・倒産手続きにおける不動産の鑑定評価上の留意事項
 ・担保不動産の鑑定評価(改訂版)
 ・証券化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針